悪だくみ
作・富士


7月の半ば、梅雨も明け夏の暑さが1年ぶりに帰って来た。
空は青く澄み渡り、誰もが素晴らしい1日の始まりを期待する午前8時。
出勤途中のサラリーマン、冬服から夏服に着替えた学生たちが通勤・通学のためにホームに
電車が来るのを待ついつもと同じ駅の光景。
しかし、いつもと同じはずの光景の中、他の大多数のサラリーマンと同じようにスーツを着ながら、
他のサラリーマンとは全く別の目的で電車を待つ男がいた。

K駅。ここにその男はいた。男の名は「松本雅功」。
痴漢の常習犯で、30件以上の罪を犯しながらいまだに1度も捕まったことが無かった。
痴漢されても黙っている娘を見つけ出す一種の勘のようなものがこの男にはあった。
痴漢の趣味が講じて痴漢の結果を小説という形で発表するホームページまで作っていた。
そして今日は次のネタを探しにK駅に来ていたのだった。
なぜK駅なのか?
それは「H女子高校の生徒を電車の中で痴漢する」ためであった。
H女子高校。地元だけでなく全国にも名が知られる名門の女子校で、校則もかなり厳しく、
そのためか生徒にはおとなしい娘が多かった。
I駅・K駅を通る下りの電車にはそのH女子高校に向かう生徒たちが多数乗っていた。
松本は会社へ向かう電車を待つ地元のI駅で、反対のホームに停まる電車の中のH女子校の生徒をいつも眺めていた。
「いつか痴漢してやる」と思っていた。
そして今日、ついに決行する日がやってきた。
I駅では顔見知りも多いので、わざわざ普段より早めに家を出て4つも離れたK駅に来ていた。準備は完璧だ。

松本はK駅に設置してあるベンチに座り、タバコを吸いながら電車が来るのを待っていた。
その間にもホームをぐるっと見回し、K駅から乗るH女子校の生徒を探すことも忘れなかった。
H女子校の生徒は何人かいるのだが、2・3人のグループだったり勘の働かない生徒がほとんどだった。
たとえ勘が働いても松本の趣味には合わなかった。
(ちっ、なかなかいい獲物がいねえな)
30分近くベンチに座っていたが松本の勘が働く生徒は現れなかった。
しばらくして電車がホームに入ってきた。
(しょうがねえな。電車の中で探してみるか)
これ以上次の電車を待っていると生徒の数が減ってしまう。諦めて電車に乗ろうとベンチから立ち上がったときだった。
改札からホームに続く階段を駆け下りて1人の女子高生が走ってきた。
H女子校のセーラー服に長い髪、くりっとした目、まさに松本の理想の娘だった。幸い勘も働いた。
(今日の獲物はこいつだ!)
松本は獲物に定めた女子高生を追って走り出した。女子高生が入った扉を確認して松本も電車に乗り込む。
松本が電車に乗ったのと同時に扉が閉まる。そして電車が走り出した。
電車が走り出すと松本は駅で見た女子高生を急いで探した。
電車が駅から離れてしまってからの移動は明らかに不自然だ。だから急いで見つけて近づかねばならない。
満員の車内で目当ての女子高生を探すとすぐに見つかった。
松本は急いで、しかし不自然にならぬよう細心の注意を払いながら女子高生の後ろにそっと近づいていった。

松本がI駅からK駅に向かって電車に乗っていた午前7時半過ぎ。
K駅から徒歩20分のところにある一軒家の2階。少女が1人ベッドで寝ていた。
ドアをノックしながら声がする。
「優香、起きてるの?早く起きないと遅刻するわよ!」
「う〜ん・・・え!もう7時半じゃない!何で起こしてくれないの!」
起こされた少女・優香は起こしに来た母親にドア越しに文句を言った。
「何度も起こしたわよ!起きないあなたが悪いんじゃないの!」
母親は優香にそう言い残して1階に下りていった。
優香はパジャマのまま鏡台の前の椅子に座り髪を整える。
普段の半分の時間で髪を整え、制服に着替えた。そして1階の洗面所に向かう。
洗面所で洗顔・歯磨きを済ませ玄関に行く。時間は7時50分。
(駅まで走ればギリギリ間に合う!)
靴をはき優香は家を飛び出した。
優香は全速で地元のK駅に向かっていた。優香の通うH女子校は遅刻に関して非常に厳しい。
(失敗したぁ。昨日遅くまで本読んじゃったのがいけなかったな〜)
優香は駅へ向かう人の波を避けながら、頭の中で昨日の夜更かしのことを反省をしていた。
息が苦しくなってきたときいつも使うK駅に到着した。自動改札を通りホームへ続く階段を駆け下りる。
タイミングよく電車がホームに停まっていた。優香は階段に1番近い電車の扉に駆け込んだ。
電車に乗るとすぐに荒い息を調えようと1つ深呼吸した。
優香は深呼吸を終えると、反対側のドアに移動しようとする。
優香の通うH女子校のあるY駅の出口がK駅とは反対側にあるためだ。
が、朝のラッシュ時の車内は容易に移動することはできない。優香は途中で諦めて車内の中ほどに立つことにした。

松本は優香の後ろにそっと立った。駅の階段を駆け下りてきた優香の息はまだ荒かった。
息の整っていない優香にいきなり痴漢しては声を上げられる可能性もある。
松本はまず優香の長い髪の毛に、他の乗客に怪しまれないよう電車の揺れに合わせて顔を近づける。
女性特有のさわやかな香りを楽しむ。

(いい匂いだ)
松本がしばらく香りを楽しんでいると、優香の呼吸が落ち着いてきた。
(そろそろ行くか)
松本は手始めに、電車の揺れに合わせて体を揺すりながら手の甲を優香のかわいらしいお尻に2・3度触れさせる。
(え?何?)
優香はお尻に何か当たる感触を感じた。
ただ、何が当たっているのか分からないし当たっても一瞬。とくに警戒はしなかった。
(第一段階は成功だ。予想通りこいつは大丈夫そうだな)
松本は安心して次の段階に進んだ。
今度は手の平でお尻を触る。これで声をあげなければあとは欲望のままに一直線だ。
松本は左手を優香のお尻に近づけた。そして軽くタッチする。
(キャッ!)
優香は思わず出そうになる声を押し殺して耐えた。
(カバンじゃ・・・ないわよね?)
自分のお尻に触れる何かを懸命に確かめようとお尻に神経を集中させる。
(・・・もしかして手?ってことは痴漢?)
優香がいろいろ考えている間にも松本の手は何度もお尻を撫でていた。
お尻を触っている手を掴んで“この人痴漢です!”と叫びたい。と思いつつ、
そのあとの恥ずかしさを考えると声を出すことができなかった。
(やはり俺の眼に狂いはなかった。しかも上玉。今日はラッキーデーだな)
松本は自分の勘の確かさと手の平から伝わる極上の感触に酔いしれていた。
しばらくするとY駅の1つ前の駅に電車が到着した。
優香はその隙に松本から離れようとしたが降りる客より乗る客が多いこの駅では思うように移動できない。
結局電車が走り出す頃には優香の後ろには松本が立っていた。

電車が走り出すと再び優香に対する松本の痴漢行為が再開した。
(あと1駅。とにかく我慢すればいいんだわ)
優香はY駅まで我慢する覚悟をした。それを察したのか松本の手がどんどん大胆になってくる。
(このままエスカレートしてったらどうしよう?)
1度は我慢する覚悟を決めたものの、さらに大胆になってくる痴漢行為に恐怖を感じていた。
松本は最終段階に移ろうとしていた。
(Y駅は次か。そろそろ・・・)
松本の手が優香のスカートの中に伸びようとしていた。
(もうこれ以上されたら声を出そう。恥ずかしいなんて言ってられない)
優香が声をあげようとしたまさにそのときだった。
松本の右手が何者かに掴まれ優香のお尻から離れた。
松本は自分の腕を掴んだ人を見る。
「痴漢だな」
優香が周囲の好奇な目にさらされぬようにするためか小声でその男は松本に話しかけた。
「くっ・・・ え?浜田?」
松本はその男を浜田と呼んだ。
「松本か?」
今度は浜田と呼ばれた男が松本を呼ぶ。2人とももちろん小声だ。
優香には何のことか分からなかったがとにかく痴漢行為が終了したことを素直に喜んだ。

電車がY駅に到着し乗客の乗り降りが終わり再び発車すると、長いホームの1番端に3人の男女が立っていた。
もちろん優香は同じ駅を利用する同級生に会って事情を話すのが恥ずかしいし、
松本は痴漢行為をしていたわけだから駅員に会いたくない。
そういうわけで駅の1番端の目立たないところに移動していたのだった。
まずは松本がしゃべりだす。
「すいませんでした。ほんの出来心だったんです。許してください。
このことがバレたら俺会社クビになるんです」
松本は頭を下げて必死に謝った。
「こいつ、本当にいいやつなんです。痴漢行為だって魔が差しただけだと思うんです。なんとか許してやってくれませんか?こいつにはあとできつく言っておきますので」
続けて浜田が優香に言った。
優香は少しの間黙って考え込んだ。
(こんなに謝ってるんだし・・・)
「・・・分かりました。でも2度とこんなことしないでくださいね」
ただでさえ学校に遅刻するというときに、あまり余計なことに時間を使いたくない優香は、
浜田の言葉を信じ学校へ向けて走り出していった。

優香が見えなくなるのを確認すると、松本がニヤッと笑う。
浜田は松本を小突きながら話しかけた。
「何やってんだよ。俺が止めないきゃあの娘声出してたぞ」
「すまん。あまりに極上な獲物なんでつい調子に乗っちまった」
「気をつけろよ。獲物に声出されて捕まるなんて一番恥ずかしいぞ」
「ああそうだな。次から気をつけるよ」
2人が話していると次の電車がホームに入ってきた。
電車から降りてきた乗客のうちの2人組が松本と浜田に近づいてくる。
そのうちの1人が松本たちに声をかける。
「よ〜。そっちはどうだった?」
「よっ!こっちは完璧だぜ。獲物も上玉。今田の方は?」
松本に今田と呼ばれた男が答える。
「痴漢までは完璧だったんだけどよ。駅で謝るときになかなか許してくれなくてさ。焦ったぜ。
それでも最後は学校の時間があるからって行っちまったけどな」
「何が『完璧だよ』だ。こいつ調子に乗ってスカートの中に手を入れちまってさ。大変だったよ。」
今田のあとにもう1人の男・東野が言葉を続ける。
「失敗すんなよ。俺が半年も暖めてたアイデアなんだからさ」
松本が今田と東野に言った。
「ごめんごめん。次からは気をつけるよ」
今田が松本に謝った。
「そういうお前だって手を入れる直前だっただろ。他人のこと言えるのか?」
浜田が松本につっこむ。
「・・・ま〜な。今まで痴漢した中で触り心地が最高だったからさ、我を忘れちまったんだ。
ごめんごめん。次からは気をつけるよ」
今田の口調を真似て松本が浜田に謝る。4人は爆笑した。
「それにしてもよくこんな作戦考えたものだな?」
東野が松本に話しかける。
「アイデアはすぐに思いついたんだがな。口が固くて痴漢の常習者、
さらに痴漢の前科がないやつを探すのに苦労したよ」
「1度捕まると鉄道警察のやつらに目をつけられるからな」
「でもわざわざこんな手の込んだことする必要があるのか?」
「もしかしたらその場で声を出さなくてもあとで警察に駆け込むかもしれないだろ。
そうなったら鉄道警察のやつらに目をつけられちまう。そうならないための保険さ。
友達が一緒に謝ってるんだ。万が一にも警察に行こうなんて気にはならないだろ」
「おまえ、本当に頭いいな」
3人が感心する。

「それで俺のホームページに来る奴らの中からお前ら3人を選び出した。うちの常連だったしな」
「そりゃ光栄だな。1日のアクセスが300越えるサイトで選ばれたんだからな。
最初誘ってもらったときは驚いたけど、こんなおいしい思いができるなんて毎日通ったかいがあったよ」
今田が松本に言った。
「じゃそろそろ今日のオフ会をお開きにしようか。次は来月だな。また近くなったらメールで連絡するよ」
松本の言葉に3人がうなづく。
4人はホームの中央に向かって歩き出した。
「よ〜し、家に帰って今日のことを小説に書くか〜。今田もちゃんと書いてくれよ。
そのためにわざわざ2組にしてるんだからな」
「分かってるさ。今までで最高の小説を書いてやるよ」
「言ったな。期待しないで待ってるよ」
「じゃ〜な」
「おう。お疲れさん!」
4人はそれぞれ電車に乗るもの、Y駅で降りるものと別々に歩き出した。

−完−


あとがき
初めて“純愛”以外のものを書いてみました。どんなものでしょうか?

※タイトルは某エロゲまんまですが内容は全く関係ないです。