夢追い虫

「大人になったら羽が生えるんだ！」
何故かは分からないけど、小さい頃そう思っていた。

まあ、実際そんな事は無いわけで、いつの間にか僕には『夢想家』だの『ボ～っとしてる』だの、
世間一般から考えて余り好ましいとは言えない評判が付いていた。
僕も傷つき易い『オトコノコ』だったし、そんな評判は嫌だった・・・・・から、
高校入学を期に羽思想（と、僕は呼んでいた）を捨てて、沢山のスポーツと少しばかりの勉強に生きる事に決めたんだ。
実際、運動は嫌いじゃ無かったから結構頑張ったよ。２年生の時には硬式テニス部で県大会５位にもなれた。

　でも３年生になった頃から、夜寝ると必ず羽が生えた夢を見るようになったんだ。
前は能動だったけど、今回は受動。
最初は悩んだよ。
ちょっとおかしいんじゃないかと思って精神科にも通った。診断は若干の鬱症状。
取り敢えず２週間程自宅療養したんだけど、最初の一週間は全然進展無くて・・・・・
で、もう諦めて、見るに任せてみると、不思議と気持ち良くて・・・・・
うん、何だかホントに浮いてるような感じがするんだよ。もちろん、浮いた事なんて無いけどね。

でも、分かるでしょ？そういう感覚・・・・・え、分からない？なんだ、酷いなぁ～。こっちは本気なんだよ？
まあ良いや、そのまま続けるよ。あ、ちなみにニヤニヤした顔で分からないって言っても・・・・・説得力、無いよ？

　で、その後３日ぐらいして『どうやら僕は一人で飛んでるんじゃ無いらしい』ってことに気付いた。
というのも、僕には羽が片方しか無かったんだ。なのに飛べている・・・・・ってことは隣に誰かいる。
って確信してたんだよ。で、感覚を集中させてみたら左手に暖かい感触。でも、左の方を振り向こうとすると必ず起きる。
起きてもその事が気になって気になって仕方が無くて、何も集中出来ないから「取り敢えず音楽でも聞こう」
なんて無理に街まで出かけたんだ。で、ＣＤを借りて、『何しようかなぁ・・・・・』ってボーっと考えてたら、
いきなり一人の子がぶつかってきたんだ。

最初は『何だコイツは？』って思ってたけど、持ってた荷物が散らばってたみたいだから取り敢えず拾ったんだよ。
で、渡したんだけど・・・・・妙な感覚が有って、ふと彼女の方を見たんだ。
そしたら何だか知らないけど顔が真っ赤になっちゃってさ。
別に美人でも無いし、可愛いって感じでも無いんだけど、何か手放せないような気がしたんだよ。

で、気付いたら口が「あの、あ、もし良かったらお茶でも飲みに行きませんか？」何て言ってたんだ。
言ってから自分で驚いたよ。
そんな事言ったのはモチロン初めてだったし、
相手だって・・・・・ねぇ？・・・・・ハイハイ、怒るのは鏡見てから～。
話戻すと、そんな不思議な事を言われて相手もビックリしてるみたいだった。
当たり前、言ってる本人が驚いてるんだから。
でも彼女からの返事がなかなか無くて、その内僕も何だか焦ってきて・・・・・
つい、「や、やっぱりダメだよね？　こんなのじゃねぇ、ハハハ」
なんて言うと、慌ててその子が取り消して、で、結局その日は携帯とメールの番号だけ聞いて帰ったんだ。

　その後はご承知の通り。初デートで緊張して紅茶、シャツにかけたり、バイクの免許取って二人で遠出したら途中でガソリン切れて二人で泣いたり、
初体験の時夢中になって痛くて泣かせちゃったり、そしたら逆に彼女の方が夢中になっちゃってこっちの腰がヤバくなったり、
余りにハマり過ぎて『このままじゃいけない』って別れ話しようと思って電話して、最後は何故かこっちが半泣きで「別れられないんだよ！！」とか言ってたり、
ちょっと冒険のつもりで一人で旅に出たら、帰った途端大泣きされて近所の人から『女泣かせ！』って言われるようになったり、
彼女の生理が来なくて二人で焦って、しょうがなくて彼女の両親に謝りに行こうと思った前日に生理が来て、二人で大泣きしたり・・・・・
色々な事が有ったけど、区切りを付ける為に彼女には一言言いたいんだ。

　　　　　　　　「僕の片羽になってくれませんか？そしてずっと空を飛びましょう。二人で」

　ってね。・・・・・え、クサい？そ～ゆ～こと言うなよ・・・・・だか・ら・・・デリカシ・・・・・・・・

Fin.