生きる
作・水霞


 ああ、君。そうそう、君だよ。今まさにビルから落ちようとしてるそこの君。
死ぬ前にちょっとした与太話を聞いてくれないかな?
君を見てたらちょっとした話を思い出してね……。
まあ、酔ったおじさんが何か言ってると思って聞いて下さいな。

 僕には余命二ヶ月の宣告をされた彼女が居たんだ。
でも、その現実が僕には受け入れられなくて、
病院に見舞いにも行かないで仕事に逃げてばっかりいたんだよ。
毎朝毎朝6時に起きて、着替えて、レトルトのご飯食べて、自転車で駅まで行って、
満員電車に1時間みっちり揺らされて、課長に「ボ〜っとしてる!」って怒られて……
今思えばバカ以外の何者でも無かったけど、当時の僕からすれば当然だったかな。
忙しい時だけは辛さも紛れたからね。逃避するには良い材料だった。

 で、ある日珍しく朝まで飲み明かしてから家に帰ったら、
リビングに包丁、胸に刺して死んでる彼女がいたんだ。
どうやら病院抜け出して戻って来ての事らしくて、触ったらちょっとだけ体温が有ったよ。
不思議と、気持ち悪いとも思わなかったし、悲しいとも思わなかった。
ただ、警察に電話してからは放心状態になっちゃってね。
警察の人が来た時には最初「こいつが犯人?」って思われちゃったよ。あ、話しが逸れたね。ごめん。
で、それから先は大騒ぎ。僕は毎日事情聴取、当然彼女への悲しみは薄れて恨みは日に日に積もる・・・・・。
「どうせ二ヶ月しか無いのになんて事してくれたんだあのバカ!」ってね。
で、余りにムカついたんで僕も「こうなったら俺も死んでやる!」と思ってリビングまで行って、包丁出して、
そして彼女と同じ立ち位置まで来た時に……急に一つ思いついたんだよ。
「死ぬのは良いけど誰が処理するんだろう?誰が僕に最初に気付くだろう?」って事を。
で、包丁持ったままそこに寝て、刃を胸に当てて……で、暫くして気付いたんだ。

 「ああ、あれが彼女なりの『一番長く生きる方法』」だったんだなぁ……って。
その時が初めてだったよ。『嬉しくて』涙出たのはね。
それから僕は出来るだけ生きる事に決めたよ。『彼女と一番長く生きる』ためにさ。

 で、それが君の『一番長く生きる方法』なのかい?
……え、違う?う〜ん、それならそこから落ちるに任せるのはオススメしないよ。
だって、僕が見た限りじゃまだ君には

         『もっと長く生きる方法』
       
が有るみたいだから・・・・・



あとがき
どうしてもタイトルが決まらず……2日程悩みました。結局一番安直なタイトルに
なってしまいましたが(苦笑
今回アップした作品は両方ともかなり実験気味なので、皆様からの暖かい批判
(?)、待ち申し上げております♪
それでは、失礼致しました♪