青月の光を浴びて……
作・水霞


 Dear my best friend,

 最近猫を飼い始めた。きっかけはありがち。長年連れ添った妻であり恋人であった人が天国へ旅立ったんだ。原因は交通事故。
車を運転していて、子供が飛び出したのを避けようとして電柱にぶつかった……らしい。彼女は元テニス部で動体視力が良かったし、
更に相手が子供ともなれば『火事場の馬鹿力』ってやつが出ても良かった筈なんだけど。いや、あんな優しい人に馬鹿は失礼だ。
元々僕なんかには似合わないくらい清楚な感じで……いや、身内自慢になっちゃったね。ごめんよ。
話を戻すと、前に話したと思うけど僕は種なしでね。勿論子供も居る筈が無くて、文字通り一人になっちゃって凄く寂しくなってね。
飲み会にも殆ど行かないで、家と会社をただただ往復してしてたんだよ。

 で、ある日、会社の帰りにフラフラッと街を歩いてたらショーウィンドウ越しに凄く悲しそうな目をした猫が居たんだよ。
同情したのかな。というより、今思えばあれは僕の目がそう写してただけなのかもね。
でも、同情しちゃった物はしょうがない……って事で猫砂やらキャットフードやら一式と一緒に『かった』んだ。
どうせ逃げても良いや……と思ってたから首輪は買わなかったよ。今思えば、逃げればむしろ他の人に迷惑がかかるんだけどね。
当時の僕にはそんな事を考える余裕なんて無くてね。とにかく寂しさから逃げられれば何でも良かったんだ。

 飼い始めた当初は大変だったよ。身体を洗おうとすれば逃げるし、ご飯だって警戒して食べない。おしっこはあっちこっちにする。
しょうがないから何日か放っておこうと思ったんだけど……不思議とそんな事が出来なくてね。
その内、あっちも観念したのか、寝る時に布団に入るまでになってくれたんだ。嬉しかったよ。
そうだ、君も今度猫を飼ってみると良い。きっと君の良い友達になってくれる筈だから。

 で、あれは下弦の月が綺麗な日。家に帰ってみると猫がいないんだ。すぐに家中探したら、
どうやら屋根の上から声がする……で、屋根の方を見たら丁度屋根から降りてるあの子が見えたんだ。
そのまま近くのマンションの方へ入っていきそうだったから慌てて追いかけたんだけど、
そのまま上の方まで上がって行っちゃったんだよ。慌てて僕も上がって上がって、気が付いたら屋上。
大きな声で呼んだら右の方から小さく鳴き声。そっちの方を向いてみれば屋上の縁の所に愛しい愛しい僕の子猫。
危険も忘れてそこまで行って、無事捕獲。その時ふと思ったんだ。
『こんなに一生懸命になったのっていつ以来なんだろう……』
ってね。

 青い月の光を浴びながら……僕は初めて妻の悲しみが分かったんだ。

 最後に、一つ謝るよ。僕の昔話には一つだけ嘘が有る。


 『僕は種なしなんかじゃなかった。ただ、君という男にしか性的魅力を感じなかったんだよ。それだけさ』

 I celbrate your marrying to her. See you.
 




あとがき
ちょっと推理物みたいな感じ……を狙ったのですが、某所で一度見せた所、「訳がわ
からない」が9割(!?)
だった、いわく付きの代物でございます(笑
さぁ……私の想い、通じているのでしょうか?あぁ、あなたの想いが知りたくて〜〜
〜手紙を書いたの〜〜〜(何