危険な自己紹介−それは現実− 作・おりゅう |
《はじめに》 よーじょ様「えっとね、ちゃんと説明するからよ〜く聞いてね。 この作品はノンフィクションです。登場する団体名・地名・人物は変更してますが、 おりゅうさんがした実話を元に製作されたものです。 あ、それと登場する人物は全て18歳以上です。 また、今のところは捕まってないようですが、良い子のみなさんは絶対に真似しないで下さい。 私とあなたのお約束だよ☆ ・・・・・・でいいんだよね? おにいちゃん」 おりゅう 「はい、よく出来ました。(なでなで)」 よーじょ様「えへへ(はぁと 話がつまらないと思いますが、それはおにいちゃんがその程度の力量ですのでご容赦を」 おりゅう 「一言多い!」 …………………………………………………………………………………………………………………………………… 《序章:開戦前夜》 大学生は暇な期間と忙しい期間との差が激しい。 長すぎる春休みがようやく終わって、桜が咲く頃には前期・後期に何を履修するかを決めなければいけない。 一般教養こそ必要単位を押さえたものの専門分野、特に必修科目の欠点が目立ち、まだまだ楽できないでいる。 ついでに教職科目を取ろうとするからなおさら悪い、結局前期は週休二日制になった。 それでもここまで抑えたのは2年からの友人である北川のおかげで、 半ば裏技のような履修単位で教職免許を取れる情報を入手したからだ。 今年で3年生、2年生まで教職を履修してないからどうしても時間的余裕がない。 そんなときにマル秘情報を教えてくれたので、これほど北川に感謝したのはなかっただろう。 そして専門分野を重視しながら4月14日から僅かな教職の時間割で前期を開始することになった。 《序章・完》 ………………………………………………………………………………………………………………………………………… 《一章:はじめての教職科目》 最初の週は講義のガイダンス(説明会)をする教師が多いので比較的楽である。 だからと言って春休みの期間中ずっと家でエロゲーばかりしていて、運動不足のおりゅうにとって大変なものには違いなかった。 特に水曜日は5限までぎっしり詰まっているので小さな弁当箱ではとても持ちこたえそうになかった。 「あつい・・・・・・」 三寒四温の単語の言う通り今日は数日前よりたいぶ暑かった。 OSU(大阪算術大学)はなぜか縦長である。 工学部は最果ての離れた所に位置し、講義によっては大学の端から端を移動しなければならない。 今日は丁度そのような時間割だった。 3・4限連続の講義が思ったより早く終わったので本屋で立ち読みをすることにした。 何を読んでたかったって? 決まってるだろ、エロゲー雑誌だと。 あまり本屋で立ち読みすることはないが、たまに見るのはこいつだけ。 ・ ・ ・ ・ ・ ほどよく時間が過ぎて腕時計はもう3時50分を差していた。 「そろそろ行くか」 俺は教室に向かった。 5限は教職科目だ。 教室には見なれない学生・・・というより全員知らない人が十数人いた。 一般教養でも他の学部と同時で講義をする場合が多いので、こういうのは珍しいことではないのだが 流石にひとりも知ってる人がいないだけに、やはり場違いな感じがしないとは言い切れない。 まるで教室を間違えたのかとか教室変更があったのかと感じるように、不安があった。 だからこそ北川が隣の席に座った時は 「よぅ、北川」 と軽い挨拶をする。 持つべきものは友だな。 3年となると約8割卒業必要単位を修得するので、当然友人との接触も少ない。 人と会うのが嬉しいけど、再履修の講義は来年も落ちないよう切羽詰った思いもあるので、 今年初めて受ける講義で友人に会うのは素直によかった。 ・ ・ ・ ・ ・ ♪チャ〜ンチャンチャ〜〜〜〜ン チャ〜ンチャンチャ〜〜〜〜〜ン♪ チャイムが鳴った。 なんでも春休みを利用して工事をしたのがこれらしい。 だが、チャイムのベルがエーデルワイスなのはどうもチャイムの気がしない。 「え〜っと、みなさんこんにちは。私がこの講義の担当、池嶋です」 最初の講義は教師の雑談を70分聞く場合が結構あるので、話の内容にもよるが非常に暇だ。 どうやらこの教師も例外ではなく、彼の薀蓄(うんちく)を聞く羽目になった。 と、思った矢先・・・ 「違う学部の生徒がたくさんいるので、お互いの顔を知らないと思います。 こちらも生徒の顔と名前を覚えるため、教壇に立って自己紹介をしてください」 「えぇ〜!?」 「まじかよ?」 あちこちでブーイングする人が続出した。 当然と言えば当然だ、誰がそんなの好き好んで名のりあげるだろうか? そんな生徒の声など聞かず、さらに 「前に立って自己紹介するときに覚えやすいように・・・・・・・・・」 何やら自分の鞄をガサゴソ探して取り出したのはデジタルカメラだった。 嫌な予感がする・・・、絶対に悪いことが起きる・・・・・・ 「ひとりひとりデジカメに収めておきます」 全員死刑判決を受けたように死んだ魚のような腐った目になった。 確かに教師たるものは教壇に立ってあがらずに学問を教えるのだが、何やら急過ぎである。 「ひとり2,3分を目安に自己紹介してください」 ・ ・ ・ 「騙されてる、私絶対に騙されてるよ〜」 こうして後の語り草となる『危険な自己紹介』の火蓋が切って落とされた。 《一章・完》 ………………………………………………………………………………………………………………………………… 《二章:友人募集中!》 「え〜っと、経済学部の草薙と言います。 趣味はバスケです、中学の頃から部活で毎日練習したことがあるので いささかバスケには自信があります。どうもみなさんよろしくお願いします」 いかにも自己紹介らしい自己紹介だが、中には無趣味のため悪戦苦闘しながら 教師から与えられた苦行をこなそうとしてるのが目に見えて分かる人もいる。 『恥ずかしがりやなので、あまり人前で話すのは苦手なのですが・・・・・・』 とでも言う人がいたら、後の人3,4人がまるで『自己紹介の公式』を代入するかのように 取り敢えず始めの決り文句と置き換えて利用したりもする。 OSUは工学部が充実してることもあって男性が無駄に多い。 しかし、経済学部や人間環境学部などもあるため全く女性がいないというわけでもない。 この講義でも謙虚に現われているが、30人近くいる生徒のうち女性は7人ほどいる。 恥をかかないようできるだけ当たり障りのないような自己紹介になるのは当然のことだ。 もちろん俺もその場の雰囲気に同調してた。 パシャ! フラッシュの光を浴びて、ひとり、またひとりとデジカメに納められる。 その光がとても無気味に見えて、北川も俺もかなり怯えていた。 「なあ、後ろの扉から逃げ出さない?」 俺も彼の意見に賛成だ。 だが、いきなり逃げ出すのは教職単位数をギリギリまで抑えた俺にとってかなり不利である。 北川もわざわざここで逃げ出すような真似はしなかった。 トントン 俺の肩を叩きてるのに気が付いて思わず後ろを振り返った。 「・・・誰?」 その人は全く知らない人だった。 俺と同年代の男性はこう言った。 「あなたは3年生だよね?」 「ええ、そうですけど」 「私は山之内といいます。短大から編入して工学部に配属されたので、あまりお友達がいないので・・・・・・」 ああ、なるほど。 要するにお友達になって欲しいのか。 こういった形で友達関係になった人はほとんどないけど、なんとなく彼の心情を悟った。 大学は高校以前と違って学校の観念がかなり違う。 工学部の○○学科というようなクラス分けがあるが、ひとつの学科は100人以上もいる。 俺の学科も同じように150人以上はいる。 それに講義をするときには150人全員で行うのは必修の講義の一部くらいで 語学など一般教養になれば他の学部・学科の学生と講義をするのは日常茶番である。 勿論担任の先生もいない。 ホームルームだって体育祭だって文化祭だってないのだからどうしても全員の顔など覚えるのは不可能だ。 大抵の人は数人ほど友人を作るのだが、彼の場合は周りにいるのは殆ど知らない人なのだろう。 「こちらこそよろしく、山之内君。俺はおりゅうという者です。 で、こちらが北川だ。よろしくな」 「ああ、どうもよろしくな」 北川も初対面の人に挨拶した。 こういうのが本来の自己紹介だと思うんだが・・・? それに俺は物覚えが悪いから一回で人の顔を覚えるのはできないんですがねぇ。 など言って愚痴をこぼした。 《二章・完》 ……………………………………………………………………………………………………………………………………… 《三章:急襲作戦決定!》 ひとり30秒で人が入れ替わりになって、いよいよ我が工学部の番になった。 「あうーっ、ネタがアレしか思い浮かばないよー! 困った、困った、困ったよーーーー! ここで遥か彼方から『お困りですか〜?』と返事するまじかるひ○りんがいるなら 代わりに自己紹介を押し付けるだろう、有無を言わさず。 しかし時間だけが嘲笑うかのように過ぎるだけだった。 そんなわけで山之内君の自己紹介など、耳に届かなかった。 そして、北川の出番となった。 北川の出席カードを纏めて提出したので、多分次は俺だろう。 「え〜っと、工学部の北川と言います。趣味は・・・ギャンブルです。 なかでも競馬を嗜んでいます。よろしくお願いします」 流石北川だ。 他の人より多少異質な自己紹介だ。 だが俺のネタには足元に及ばないだろう・・・ あまり使いたくなかったが。 そういえば北川が 「《はじめてあった時からあなたのことが好きでした》にしたら?」 と提案したが、場合によってはそれ以上に危険であるのは百も承知だった。 そして北川の自己紹介が終わって教師が一言、 「みんな短いから次の人もっと長くお願いします」 ・・・いきなり釘を刺さないでよ。 《三章・完》 ………………………………………………………………………………………………………………………………… 《四章:導かれし者たち》 ああ、これほどまでに教壇がギロチン台に見えたことはないであろう。 30人の視姦に絶え、恥らいの言葉を発するという重みが一気にのしかかった感じだ。 「・・・・・・はぁ〜」 どうも二十歳を越えるとため息の回数が多くなった気がする。 まだ老けたと思ってないのに・・・、ちょっとショックだ。 「え〜っと、俺はおりゅうです、よろしく。 ・・・・・・・・・・・・ えっと、趣味は・・・・・・、その・・・ 一言で言うと18歳未満禁止なんですが・・・・・・」 流石にざわめきが絶えなかった。 俺も顔を真っ赤にしてうつ伏せになった。 愛の告白をしたこともない俺がまさかここで30人相手に エロゲーの告白をするとは夢にも思ってなかっただけにショックが大きかった。 パシャ! あぁ、こんなとこで取らないでよ・・・・・・ 《ああパトラッシュ、お迎えが来たのね? ・・・・・・ぐふっ》 とまで逝かなかったのは俺が多少アブナイ人だったからでしょう。 さらに余力を振り絞って、 「分かりやすく言うとエッチゲームです」 俺の口はもはや放送禁止用語が飛び出てもおかしくない状態までリミットゲージが溢れ返った。 おりゅう究極奥義『暴走乱舞撃』が遂に発動した!! 「帰宅するついでに月に1日、日本橋でエッチゲームを買い漁るんです、今からそれを実演しますね」 こうして俺は遂に歴史的瞬間に刻まれる危険な行為をすることになった。 《四章・完》 ……………………………………………………………………………………………………………………………………… 《五章:そして伝説へ・・・》 《・・・・・・空を飛んでいた、大きな雲と一緒に・・・ 雲と一緒に・・・ 蒼い、蒼い海を見下ろしていた・・・・・・》 ・・・アホな冗談はこれくらいにしましょう。 とにかく半分頭は逝ってしまったのは確かだ。 エロヲタがトランスした場合ほど危険なのはないからだ。 「日本橋は大阪でもその手のメッカだから試験には出ないけど覚えとくように! 俺の場合はネットから厳選したリストを片手に3件ほど巡って、一番安い店で買うようにしている。 一回のソフト巡りに大体3000円から12000円使うときもあり、それ相応の気合を入れている」 エロゲー歴1年10ヶ月、そろそろ自己流というのが出始めたのだろう、熱心に生徒に教えるさまは教師そのものだった。 ・・・もっとも実際は上手く説明しきれなかったようだが。 「そしてエッチソフトのパッケージはとにかくでかいです、はっきり言って邪魔です。 最近はDVD用のパッケージも発売してるようだがまだまだ巨大なのが多く、箱は部屋の押入れに収容しています。 しかし、あれってショッピングしてるときは非常に楽しいんですね」 もはや口だけでなく体全体を使って説明してる自分に少し戸惑いつつも、なおも実演は続きそうだ。 『エロヲタが本気でネタを言うものなら何時間でも語れる』 そう言った人がいたが、まさにその通りだった。 「で、手に余るパッケージを見比べてこっちがいいかな? それともこっちかな? と言うふうにエッチゲームを見ながら悦に浸ってる時間を楽しんでいます。 そしてようやく何を買うか決まってレジに向かいます」 「しつもーん、なんで教職を選んだのですか?」 どこかで女子大生が質問したようだ。 しかし、暴走したおりゅうの耳には届いてなかった。 そう言えば先週エロゲーを買ったっけ。 どんなゲームを買うのか具体的に言おうと内ポケットから財布を取り出し、その中に入っているレシートを見た。 そこには・・・、『学園―恥辱の図式―』 よりによって鬼畜ゲーかいっ!! すかさずポケットに入れ直した。 流石にそこまで言う馬鹿じゃない。 「大きいソフトをレジで会計します。 そのときお金と一緒にカードを提示します。 たとえば・・・・・・」 今度は反対側の内ポケットに手を出し、定期入れを取り出した。 俺のポケットにはエロゲー関係のカードがぎっしり詰まっている。 しょんぼりファンクラブの記念カードもあるし、『人形の館』のテレフォンカードもある。 エロゲーショップから同人ソフト店のカードも3,4枚所持している。 その中からおもむろに取り出したのは御馴染み、ソ○マップカードだった。 「これがそのカードです」 俺はカードを右手に掲げ全員に見えるように見せた。 そしてカードを教卓に置いた。 「え〜っと、3621円ですね?」 今度は実際に金を払うのも実演した。 「千円札三枚の、五百円玉・・・あれ? ないなあ。 じゃあ代わりにもう1枚千円を出して、百円玉一個、え〜っと十円玉2個、1円玉が1個・・・と」 ジャラジャラと音を立てながら同じく教壇に並べる。 そして、一人二役でエロゲーを包んで会計を済ませる店員の役もする。 ・・・大阪人の血があるからだろうか。 どうしても行動の節々にボケ・ツッコミをしなくては気がすまないようだ。 勿論俺はボケ役である。 「ありがとうございました!」 ここまで言ってさっさとカードと金を財布に戻す。 「くすくす・・・・・・、面白い人」 さっきの女子大生のようだ。 まあ、俺の行動はかなり常識を逸脱してるだろう。 「そして店から出たら街角の隅でこういう具合にエッチソフトを鞄に仕舞い込みます」 さて、今度はどんな話題をしようか・・・ もしかしたらエロヲタもいるかもしれないがいない人を考慮するならあまり難しいことは語れない。 では、実際にエロゲーをインストールする場面を実演して締めにしようか。 「そして家に帰ってゆっくりくつろいでエッチソフトショッピングの余韻に浸ります。 しばらくして内容物を改めるためインストールをします」 そう言って椅子に座ってパソコンを立ち上げる素振りをした。 「俺のパソコンはWin98のノート型、スペックはHDD5,57G、CPU466MHz、メモリー64MBと かなり旧式なので、最近のエッチゲームをするとかなりの確立でフリーズします」 そして、パッケージからCDを取りだしディスクドライブに挿入する。 適当にキーボードを叩くふりをして、 「このインストールが約5分かかるのです。 その間のんびりエッチゲー雑誌を読んで時間を潰します。 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ お、《DISK2に入れ替えてください》とでたか」 そう言ってまたディスクを取りだし、インストールを続行する。 ・・・そろそろいいかな? 「とまあこんな具合で毎日楽しんでます。 そんなわけでみなさんよろしくお願いします」 自分でもどう言う訳なのかサッパリ分からなかったが、取り敢えず俺の自己紹介は終了した。 時間にして約10分。 席に戻って二人が言った言葉は 「お前やりすぎ(汗)」 《五章・完》 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 《終章:夏の予感》 長かった5限が終わり、今日の講義が終了したのは5時30分だった。 北川が自転車、山之内君はバスを利用し、そして俺は徒歩で最寄の駅に向かうため 校舎から出た俺たちは解散をした。 大学から駅までは歩いて20分かかり、走れば10分で着くこともできるが疲れていたので、それはしなかった。 ・ ・ ・ ・ ・ のんびりと路地を通り、小さな公園まで辿り着いて見上げれば桜が散った枝に葉っぱが芽生えた光景があった。 陽気でアホな俺は気持ち一杯思いっきり息を吸って、 「明日も戦いだ! 日本橋で決戦だー!」 と無駄な情熱を体一杯に燃やして再び歩きだした。 《完》 |
あとがき |
おりゅう 「というわけで久々の読み物ですが如何でしたか?」 よーじょ様「えっとね、おにいちゃん。 現実をベースにしてるだけあって、先がすぐ読めそうな安直な話ですね」 おりゅう 「ぐさっ、いたいことを・・・」 よーじょ様「でもおにいちゃんがいかに変態だったかはよく伝わったからいいんじゃないの? ほとんど話の流れを変えてないから。 まさに『現実は小説より奇なり』ですね♪」 おりゅう 「フォローになってない!」 よーじょ様「まあまあ、おにいちゃんのアシストをするのが私の仕事の一つですから」 おりゅう 「ん? ひとつって他にもあったのか?」 よーじょ様「あはは、おにいちゃん何言ってるの? もちろん夜のお勤・・・」 おりゅう 「待てぃ!」 *『導かれし者たち』『そして伝説へ・・・』の元ネタは・・・、もちろんあのゲームです。 ちなみにあのキャラもネタとして利用しました(^^; 《Happy End・・・らしい》 |