はじめて物語
作・らぴ夫


時は明治の終わり頃。

飛行機なんぞは当然なく、人々は「陸蒸気」と呼ばれた蒸気の力で走る汽車が
長距離を移動する最良の手段でした。

しかし、まだ開通して50年とは経たない陸蒸気の運賃はべらぼうに高く、
とても庶民が気楽に乗れるものではありません。

金持ちも金持ちで、乗った駅に履物を脱いで置いてきてしまう行儀の良い人、
揺れに耐えられず、いきなり飛び降りた人など珍事件続出。
そんな頃のどーでも良いお話をひとつ。

東京行きの陸蒸気に、一組の男女が乗り込もうとしています。
一人は、髪に白いものも混じる壮年を少し過ぎた紳士。
腰はしゃんとしてるのに杖を持っているのと、似合わないシルクハットが
印象に残ります。
もう一人。女性の方は凄く若く見えます。年のころは15、6くらい。
髪はおかっぱで少しおどおどしています。
たぶん汽車に乗るのが初めてで緊張しているのでしょう。

おかっぱの彼女、名前はあずさちゃんと言いました。
一緒にいる紳士の元で下女として働いています。

下女といいますが、あずさちゃんの服装は、当時としては
とてもエキセントリックな格好、いわゆるメイド服に身を包み
太腿も露わな短い丈のスカート。
当時女性が下着を着ける習慣はありませんでしたので、
当然、下は「すっぽんぽん」の涼しげ…というより
悩ましげな格好をしていました。

なぜこんな事になってるのか、その原因は紳士の趣味にありました。
この紳士、幕末の混乱期に英国に渡米。英語だけを学ぶのに飽き足らず、
風俗、流行、果てやセックス産業の動向などまで学んだ博覧強記の学者さん。
西洋の文化に触れた彼は、極端な外国かぶれとして有名でした。

ところが、彼の知識には大きな欠点がありました。
半年の渡英中に学んだ知識には、実際に外国に行ったことのない
人間には解らない大きな偏りがあったのです。

「メイドってのはなぁ、ミッタムラぁ〜 主人に奉仕するのが仕事だから、
いつでも挿れれるような服装が普通なんだ。ほれこんな感じにな」

留学先の金持ちの英国人は、三田村博士の前で常にメイドに奉仕させては
喜ぶ下品な男でした。
これが日本なら流石の三田村もただの変態だと気づいたでしょう。

しかし「彼の行動=西洋の文化」の方程式を勝手に作っていた三田村は
教えてくれた友人が「変態性欲の持ち主」とは気づかず寧ろ熱心に
西洋の文化の吸収に勤めました。

そして日本に帰国。
周りに大波乱を巻き起こす「変態博士」となって…

***

「あずさ、あずさ、こっちに来い、こっちに」

一等客席に腰を降ろした紳士、隠居して「三田村 万斎」と名乗っています。
世間では、その研究が高く評価される一方、破廉恥騒ぎで新聞も賑わせる
「変態博士」として、いろんな意味で有名人。

さっそく向かい側の席についたメイドのあずさに隣に座るよう声をかけます。
怪しげな西洋薬のおかげで見た目は50代ですが、実際はかなりの老人。
このすけべ爺、今年77の米寿を迎えていました。

「はい御主人さま」明るく答えるあずさ、
初めての乗り物に緊張していたので、いつものように声をかけてくれたほうが
安心するのでしょう。

そんな安心をぶっ飛ばすかのように万斎は、
「駅弁が食べたいの〜」と呟くがいなや、隣に腰かけようとしたあずさの手を掴み、
自分の腰の上に跨がせると、ズボンのチャックを手早く開けて
今だ現役の一物を取り出し、下着も何もつけてない
あずさの下半身にいきなり挿入を試みます。

「きゃっあの…御主人さま、まだ準備が……」

いつもの事なので襲われる事への驚きはあまりありませんが、
まさか陸蒸気の中で襲われるとは思ってもみませんでした。
万斎は、あずさのブラウスの隙間から手を忍ばせると、
乳房を揉みしだきながらあずさに言います。

「陸蒸気で駅弁を食べるのは、外国では当たり前なんじゃよ、あずさ」

濡れやすい体質のあずさの秘所は、愛撫に反応してヌルヌルに湿り、
愛液がもう溢れ出しています。

「やぁっ でも恥ずかしいです〜ご主人様……」

万斎の肉棒が、羞恥に手で顔を隠すあずさのピンクの窪みを容赦なく貫きます。
膣内はあたたかく羞恥に刺激されるかのように締まりを増していきました。
ゆっくりと悩ましげに腰を使いながら万斎は、

「なぁ〜に、日本は遅れておるだけじゃ、西洋では、駅ごとに
体位を変えたりして駅弁を行ってるそうじゃ。どうだ次の駅では
後ろから…」

「あんっあんっあぁぁぁぁっっ」
恥ずかしさと、快楽が入り混じり、ついには声がでてしまうあずさ、
客室なので乗客にもまる聞こえです。

切ない喘ぎ声をあげながら、あずさの視線は斜め向かいに座ってる乗客の驚いた
顔を捕らえました。

(見られてる。私の恥ずかしいところ見られてる……ブラウスからはみ出た乳房も、
お尻の穴までも…)

その瞬間、いつも杖でお尻をぶたれたり、ひもで縛られる感覚とはまるで違った
感覚が彼女を襲いました。

(ああ、あっちの乗客の人まで、恥ずかしい所を見てる、そんなに体を乗り出して…やぁっ)

見られれば見られるほど高まる興奮。
(恥ずかしいのに…)
いつしかあずさは、万斎の動きに合わせるように自分から腰を使い、他人に聞こえるのを
楽しむかのように、嬌声を搾り出し始めます。

「御主人さま、そこぉっっ、そこを突いてっっ、あぁんっっっ……」

「流石はワシのメイド…良い声をだす。それじゃそろそろ膣(なか)にだすぞっっ」

万斎のピストン運動が一際早くなり、そして…
「あずさ、ほれ受け取れぃぃぃぃっ」 

(あっ、もっもう…飛ぶっ、熱くて熱くていっちゃうよぉぉっ)
あずさの淫らに火照った恥裂に挿し込まれた熱棒がしだいに硬度
を失っていく。あずさは、なにかこの瞬間だけご主人様を征服したような
心地よさを覚えながら、万斎にもたれかかったのでした。

****


あれから数日後、用事をすませた万斎は、あずさと共に再び陸蒸気へと乗り込みました。
あずさちゃんの心中は穏やかではありません。

(また恥ずかしいことするのでしょうかご主人様、凄くいやだけど…
でも何もないのも変な気分… ヤダ私どうなれば良いと思ってるのかしら……)
つい意識してしまい、向かい合って座る万斎の顔を伺ってしまいます。

その時、万斎の視線は下へ下へと…よく見るとそれはあずさちゃんの下半身を凝視していました。
あずさちゃんは、下着を着けていません。
「メイドのポリシーは下着なし」を提唱する万斎によって徹底され、人前でも露出を余儀なくされているのです。

陸蒸気の揺れに合せて小刻みに震える太腿と薄桃色に一筋はいったワレメ。
少女の初々しい下半身を眺めながら万斎はご機嫌でした。

とっその時、スケベジジイ万斎の頭に、イギリス留学時代の友の言葉が思い出せれたのです。

「陸蒸気っていえばなぁミッタムラぁ〜 最近の流行りで痴漢ってのが流行らしいぞ」

(流行りも流行も同じ意味なんだけど…)
どんな事でも吸収しようと燃える若き三田村博士は、それでも友人の話に興味を覚え続きをせがみます。

「痴漢ってのは、紳士のスポーツだ。駅に着くのが先が相手を絶頂に導かせるのが先か、
 おっと、ジェントルマンだから女性に恥をかかせてはいけない。あくまで、
 周りの者には気づかれないのがルール。どうだ? 難しいだろ」

回想から戻った満載は、「むぅぅぅぅぅぅぅっ」と深く唸ると、腕を組み、改めて
「痴漢」の難しさを思いました。

「周りにバレないように…とすると喘ぎ声ひとつださせてはダメ…か」
呟く声が漏れます。
(この前の「駅弁」は簡単じゃったが、正直無理なのでは……いやいやワシは
万斎、英国通の三田村 万斎様じゃ。わしにできないハズはない。いまこそ留学の経験を生かす時)

万斎の決意は固まりました。
(よし、あずさを声ひとつ立てずに快楽の渦に巻き込んでくれるわ。
なあ〜にまだワシが開通させて一月とたたん小娘。恥ずかしくて声もでんじゃろ。)

読んでる人も含めて正直そりゃ無理だろ。その前のシーンでアンアン喘いでるじゃないか…
という事などすっかり忘れ万斎はやる気まんまん、見た目は若くても思考に混濁が見られます。

万斎にとって不幸だったのは、「痴漢」の相手あずさちゃんの成長を見抜けなかったことでした。
最初不安そうに万斎の動きを伺っていた少女の眼は、いつのまにか成熟した女性の色香を
含む瞳へと変貌していました。
(万斎さまに抱かれたい、そしてもっともっと可愛がって、気持ち良くして欲しい)
あずさちゃんの決意は普通なら万斎を大喜びさせるものだったでしょう。

(ごくり)
いつもより心なしか慎重に事を進めようとする万斎。
太腿の愛撫から入ります。

ところが、

「やっ、やぁぁぁっっ、万斎さま、まんさい様〜〜気持ち良い。凄くここが濡れしまいますぅ〜」

言うが早いか、満載の手を掴み自分の花弁に引き寄せるあずさ。
魅力的な女性第一段としての男心をそそる痴態作戦は、ハッキリ言って
オーバーアクションでした。

「ざわざわ…… なんだなんだ??」

騒ぎ出す乗客達。

満載は、色香をもった眼で見つめるあずさの手を振り解き、陸蒸気の後部へと走り出しました。

「負けじゃ、負けじゃ、まけじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

脳裏に、「痴漢」の事を話した過去の記憶が再び蘇ります。

「もし、痴漢が周りにばれたらどうなるんだ? 失敗したわけだろ。何か
ペナルティとかあるのか、サッカーのPK見たいに」

フゥッ。

オーバーに手をやれやれと言った風に胸の前でひらひらさせると、
「当然ペナルティーはある。その時は死だ」

「死ぃ!?」

驚く三田村に友人は続けます。

「そう死。ばれた途端周りのお客さんは暴徒と化してお前を襲うだろう。負け犬のお前をな。
だからこのスポーツ暇を持て余した貴族がやるロシアンルーレットみたいな人気があるのさ。
死と隣り合わせのスポーツだから」

後部車両へと走りながら、満載の頭には、「死」の一文字で満たさていました。
(ダメだ襲われる、逃げるしかない、そう逃げるしか。ワシが乗客どもに
殺されてなるものか、そうだ飛び降りよう、次の駅までまってたら殺されるっ)

思うが早いかエイヤと飛び降りた万斎。
そこに待っていたのは、死ぬのには十分な高さの断崖絶壁でした。
「逃げ切った〜逃げ切った〜〜」万斎の最後の言葉です。

読んでいる貴方。痴漢を企んでたら、今すぐやめましょうね。
乗客に襲われますから
……たぶん。




あとがき
わーい筋も決めずに書いたら落語みたいなオチになっちまった〜
ま、書いてて楽しかったのでよし。