どきどきサマーレッスン
作・らぴ夫

第一話

「あちぃぃぃ〜」

目的地でもあるキャンプ場の駐車場は、生意気にもアスファルト。
立ち上る熱気と照り返しにいきなり俺はガッツを失っていた。

大地に降りたった次の1歩目で再び涼しい車中へ。

「よし、良い思い出作れたな。じゃ帰るか」

やっと到着し外ではしゃぐ二人に声をかける。

「えぇぇぇ帰るの〜 まだ1分しか経ってない」

ホットパンツに白いTシャツの小学五年生、美香が外で呆れている。

「あ、あの…、早くしないと、その…祐介さん。他の車もう荷物降ろしてます」

白い日傘を肩にかけ、水色のワンピースの少女が心配そうに窓越しに覗き込んでくる。
6年生の澪(みお)は、流石に帰るとは思ってないが、荷物が心配らしい。

一緒に来た町内会グループの車は既に荷物降ろしを始めていた。
他人事のように窓越しに眺めていたが、よ〜く考えると俺もその一員だ。
確かにやべぇ。

「わかったわかった、そんな顔するなって澪」

俺は紳士な微笑を澪に返すと、やっとこ外にでる決意を固めた。

(トランクに入りきれなかった二人の手荷物もついでに持って出るか)

後部座席に手を伸ばし、二つの手さげを掴むととりあえず助手席のシートに
置いた。

フト、美香の手提げを見ると、隙間からはお菓子やミニタオル
更に奥の方にはチラッと何かチェックの淡いオレンジ色の布地が…
ぱっパンツがあるではないかっっっ。

美香め、色気0%…… もとい50%くらいくせに生意気なパンツ履きおって
……しかも俺興奮してるし。

(もしかして美香に欲情!?)

一人で頭をブンブンブンと振り払い、荷物を抱えてやっと外にでた。


俺が外へ出ると美香は待ちかねたように、

「もぉっ〜遅いぃぃ〜、他のみんなキャンプ場の方にいっちゃったよ」

ぷぅっと頬を膨らませる。

そんな美香の頭上に、日傘をさしてあげながら澪はまだ心配そうな顔をしている。
3人だけ置いていかれたので心細くなってるようだ。

「大人の人たちってどっちいった〜??」

二人に尋ねると、美香がでかいジャスチャーで俺の後ろを指し示す。
振り向くと案内図があり、キャンプ地までは300メートルの表示と矢印。

とりあえずトランクの中のテントだなんだを持っていかねば。

「よ〜し二人とも集合」

「エラソ〜裕ちゃん」

「かぉぉっ生意気いうな美香っ。っていうかあだ名で呼ぶな」

「……くす」澪はくだらないやりとりに心が緩んだのか柔らかい表情に戻っている。

「なんで1コ上の澪には、みおさん、で俺にはちゃんづけなんじゃぁぁ」

美香の背後に周りこめかみをぐりぐりすると、

「澪さんの方が大人だもんっ。祐ちゃんは祐ちゃんでいいの」

防御するかのようにしゃがみこむ。

むぅっ、確かにこれじゃ子供じゃん俺。

我に返った俺は、美香を置き去りにしたまま車に戻ると、黙々と荷物を降ろしていく。

「怒ったの??」

美香が荷物を運ぶ俺に声を掛けるが取り合わない。

1個、2個、荷物は次々とキャンプ地へ運ばれていく。

無視された美香はしばらく、悲しそうに立ち竦んでいたが、
心配した澪に声を掛けられたとたん、気持ちを抑えきれなくなったのか

「わぁぁぁぁぁぁぁん」

いきなり澪にもたれかかって泣き出し始めた。
澪の日傘がふわっと宙を舞い、アスファルトの上に落ちた。

これだから子供は…という思いと、無視したのはやり過ぎたなという後悔が入り混じり
俺はフゥっと溜息を漏らし夏の風景に目をやった。

さっきまでうるさく夏を演出していた近くの木々の蝉が泣き止み、
静寂の中で澪の胸で嗚咽する美香の泣き声が響いている。

運んでいた荷物をその場に置くと、俺はつとめて明るい声で美香に話し掛けた。

「美香ちゃん、み〜かちゃん。…ゴメン。ごめんな」

美香は応えない。

「ホントにごめん。美香が可愛かったからつい意地悪しちまった、ホラ
 自分が好きな娘とかに意地悪しちゃうっていうの聞いたことない?
 そんな感じ…」

無意識に首筋を掻きながら俺は美香の機嫌が少しでも直るように、
軽〜い嘘をついた。ホントは大人げない話たがムカっときて無視
しただけだ。

「美香、お兄ちゃんの事嫌いにならないでな、謝れるだけ謝るから」

いったきリ、俺は真夏の地面に立ちつくすと美香の反応を待った。

「……」

「……」

蝉の声が喧騒と静寂を何度か繰り返した。


ピクッ。

泣いていた美香の背中に何となく変化があったのが感じられた。

時間が動き出したのだ。

「ほらハンカチ。朝洗ったやつ持ってきたから存分に使いな」

ハンカチを澪に渡すと、美香は素直に受け取り涙を拭いた。

澪はお姉さんらしく
「美香ちゃん。祐介さんは美香ちゃんの事嫌いになってないよ、ね」

というと、美香の抱きしめて離さない両腕を優しく離し、さきほどまで
悲しみに震えていた肩に手をおいて、ゆっくりと美香の体をこちらに向けてくれた。

泣き過ぎてちっちゃい鼻と額が少し桜色になっている美香は、どうしてよいか解らず恥ずかしそうに俯いている。

俺の動きもぎこちない…なんか小学生の美香がすごく可愛く……そして愛しく感じた。

「祐介…さん」

美香ちゃんが振り絞るように声をだす。

「ごめんなさい」

なんの企みも下心もない素直な気持ちからでた言葉。

「俺こそごめんなさい」

俺は口先で逃げようとした自分を恥じるかのように無意識に頭を下げていた。

良かった。
仲直りできた気がする。

ホッとしたのと、気を取りなおしたくてつい声が出た。

「「よしっ」」

おおっ!?

し切り直しのつもりで出た言葉が、美香と偶然はもってしまう。

「フフフ…」

顔を見合わせると、二人で笑いあった。
いつもの明るく元気な美香だ。

「あの…そろそろ運びましょうか? あとニ個ですよ」

少し離れて仲直りするのを見ていた澪が二人に声をかける。

「よ〜し、いくか美香っっ」

「うん祐ちゃん。じゃなくて祐介さん」

しまった〜という顔で照れ笑いをする美香。

「いいよ祐ちゃんで…まあ嫌がらせしてる訳じゃないし」

手入れもなしに細くて柔らかいスポーツ少女の短い髪を
くしゃと撫でると、俺は明るい声で答えた。

「うんっ そうする。…あのね、好きだよ…祐ちゃん」

自分がいったことが少し恥ずかしかったらしく車に駆けていく美香。

さ〜てこれから2泊3日。
最初からつまづいてるけど大丈夫かな俺。

美香の最後の言葉に少し顔がニヤケつつ青く澄みきった空を
見上げた。



つづく


あとがき
タイトル某ゲームからパクるなよ…とツッコミ入れられそうですが、まあ面倒なんで気にしない。
とりあえず、すんごくダラダラと書こうと思ったら、全然エロまで持っていけず。
しかしまあ、2泊3日+αになりそうなので、あまり期待せずゆっくり待っててくださいな。
ではでは。