雨が降れば 作・水霞 |
第一話 第二話
<第一話> 突然だが、私、水上 智乃(みずかみ ともの)は雨が好き。特に夏の雨。 例え何が有ろうとも、それ無しでは生きていけない……という程では無いけれど、 雨が降ると傘も差さずに散歩に出かけたくなるのも事実。 ……夢から覚めると雨の音。早速、雨の散歩用の格好になって出かける。別に誰と会う訳でも無いので化粧等は一切無し。 ちなみに、一度薄着のまま出かけたら下心丸出しの男が寄って来て困った経験が有ったので、それからは透けない服を着る事にしている。 そんな事まで考えるのは煩雑……だけど、しょうがない。 「う〜ん、気持ち良い……」 夏の朝の生暖かい風。緩やかに降る暖かい雨。その効能で起き掛けの意識の弱さも解消して、 人通りの少ない通りをゆっくりと一周……していると、向こうから身長170弱くらいの痩せ型の人が一人。傘は持っていない。何だか好奇心。 話してみようかな?と思っている内に、私の横を通り過ぎた。雨の匂いと柑橘類の匂いが少しだけ。 急いでるみたいだし、いきなり声を掛けるのもおかしいかな・・・」 と、それとなく思いながら散歩が終了。シャワーを浴びてご飯を作る。 そしてその後はお決まりの読書タイム。そして昼寝。 気が付けば、夜。 「宿題……しなきゃ……」 と思いつつお気に入りの音楽に浸る。よし、意識回復、行動開始。 下に降りれば、分かりきってはいるけれど――私だけ。両親は夏休み旅行中なので家にはいない。 ま、普段から共働き(しかも帰宅が10時過ぎ)なのでいつだろうが状況にさして変化は無いのだけれど。 とりあえず、ご飯を作る。一人分なので適当に。 「微妙……。65点ってところかな」 今日のメニューは鯛茶漬けwith明太子&大根サラダ(明太子マヨネーズソース)。 明太子は博多の親戚からの贈り物。これ自体は凄く美味しい。 まあ、一応お腹は満足を示しているみたいなので、部屋に戻って宿題に取りかかる。 「え〜と、ここは正弦定理を使って……げ、計算合わない……」 なんて独り言ばかり進んでしまったけれど、なんとか予定分は終わった。 「ふぁ〜ぁ。さて……と、寝ますか」 ベッドに潜り込んで、取りとめも無く色々と考えてると……引っかかった事が一つ。 「あれ? 今日歩いてた彼、符遠(ふおん)君かな? あの痩せ具合といい、あの奇行といい……」 符遠君(本名は 符遠 灯(ふおん あかり)だった筈)は、クラスでも有名な『変人』で、 文字通り『フラフラ』と学校に来てみたり『フラフラ』と抜け出してみたり、 平日抜け出したと思ったら次の日は顔中アザだらけ……なんて事が2、3回。 けれど、実際は煙草もお酒も手を付けてない(あくまでそうらしいとの噂話だけれど)という珍しいタイプの人だ。 因みに、クラス内の評判は『訳が分からない』が殆ど。 はっきり嫌われてる……という程では無いけれど、お世辞にも良いとは言えない。 まあ、そんな事も有り、私も二言三言話した事が有る程度なので、実際の所はどういう人なのかは分からない。 「ま、明日居たら話し掛けてみようかな。反応無かったらどうでも良いや……』 と一人呟きつつ床に着いて、そのまま夢の世界へ……。 サァァァ………… 朝。またもや雨の音。暫くまどろんでから今日の目的を思い出す。 「散歩……行こう……」 時計の針が、起きてから30度程進んで、やっと頭が動き出した。早速着替える。今日も化粧は無し。どうせ濡れるのに化粧なんてしていられない。 下に降りて朝食の用意。メニューはパン(苺ジャム付き)と昨日のサラダの残り。 「ごちそうさま」と誰に言うでもなく呟く。 食器を片付け、準備完了。 ドアを開けると・・・どうやら雨は丁度止んだみたい。東の空が少し明るい。 「行ってきます」と独り言。少しばかりの好奇心と共に昨日の場所に……居た。やっぱり、彼。 どうやら犬を連れている……。可愛い小型犬。少しの躊躇の後、思い切って声をかけてみる。 「符遠君……? だよね? 」 少しばかりの沈黙の後で、彼が大袈裟とも思えるような反応を返してくる。 「あ、ああ!! 水上さんかぁ〜。確かに符遠だけど……久し振りだねぇ〜。どうしたの? 」 「あ、昨日符遠君見かけたから、話かけてみようかな〜と。……もしかして邪魔だった? 」 「いやいや。俺に話し掛けて来る人が居るなんてビックリしてさぁ〜。あ、それじゃ昨日チラッと見かけたのは水上さんだったんだね〜 」 「あ、気付いてたんだ。符遠君忙しそうだったし、絶対気付いて無いと思ったんだけど……」 「あ〜、昨日はちょっと野暮用が有ったもんでね。でもしっかり見てました♪でも・・・水上さん傘差して無かったよね?雨だったのに」 「ま、それはちょっとした事情が有りまして。それより、符遠君こそ傘差して無かったよね? 何か有ったの?」 「あぁ、面倒だったから♪ それだけだよ。時間が無かったのも有ったけど。 さて……と、こいつがそろそろ行きたがってるみたいだから行くな。明日も縁が有ったら会おうよ♪」 彼が少し引き綱を引く。確かに、犬は逆に向かって少し苦しそうに前に進もうとしている。 「分かった。それじゃ、またそのうちに」 ……家に到着。 一度部屋に戻ってからシャワーを浴びる。その後は夏休みに入ってから癖になった昼寝。 『結構普通の人だったな。評判よりはだけど……』 と考えていると意識が遠くなって・・・次に気が付いた時には午後4時。 「ふぅ……。さて、動きますか」 と言いつつ10分。髪に若干寝癖が付いているみたいだけど、家から出ないので直さない事にする。面倒だし。 その後は代わり映えしない行動。そして気が付けば時計の針が一回転していたので、ベッドに入る事にした。 『明日は天気どうなるだろう……』 なんて考えていると、意識は夢の中へ……。 二日後、また彼に会った。今日はたまたま晴れ。隣には前も見た小型犬。 私がしゃがむと、『千切れそう』な勢いでシッポを振って擦り寄ってきた。お腹の辺りに子犬らしい暖かい感じが広がる。 「ハハ♪ 随分気に入られたみたいだね〜。コイツすっごい喜んでる」 「アハハ。それにしても可愛いね。符遠君が飼ってる?」 「そうそう。 元は姉貴が「どうしても飼いたいの!!」ってウルサいから貰って来たんだけど……結局世話しないしさ〜。ホント、困ってるんだよ〜。」 そう言いながらも、彼は犬を見ながら幸せそうに笑う。多分、基本的に世話が負担にならないタイプなんだろう。『羨ましいな……』と思う。 そのまま、他愛も無い話とか、『こういう犬が好き』とかいう話をしてから別れた。 次の日も、他愛の無い話をした。その次の日も、他愛の無い話をして……いる内に、段々散歩とお喋りが日課になってきた。 その内に分かった事といえば、二人とも全く現代人らしくない事。二人ともコンピューターどころか、携帯電話すら持っていない。 彼曰く、「まず、お金が勿体無いし、コンピューターは面倒。携帯電話は……友達居ないしねぇ。使わないでしょ♪」だ、そう。 そんな事が続いたある日、彼が右手に見慣れない物を持ってきた。見た目は――明らかに電子機器。とりあえず、その謎の物体の正体を聞いてみる。 「あれ? 電子機器持たないって言ってなかった? それ……カメラ……だよね?」 「あ〜、これ? 誕生日に貰ったんだよ♪ 姉貴のお下がり。 それより、ちょっとこっちに来て♪」 「どうしたの?」 と言いながらすんなり彼の隣まで行く。何故だか、彼の近くには普通の人より寄り易い。『あの何も考えて無さそうな顔が……』なんて考えていると、 「見てみ〜。きっと面白い物が写ってる筈だよ♪」 と、彼がカメラを見せてきた。 「何? それより、どうすれば良いのか分からないし、何か怪しい匂いがするんだけど。まさか、実は噂通りで怖い人だったとか……」 「ま、ま。全ては見てからのお楽しみって事で……そこの赤いボタンを押すと写真が見れるから♪」 「分かった。じゃ、見てみる。でも、危ない人だったらすぐここから逃げるからね。もし変な事とかされたら、警察直行するから」 「まぁ、まぁ、全ては見てから♪ささ、どうぞどうぞ」 「それじゃ……ここ? 押すよ……!? 」 そこに写っていたのは、生まれたままの姿の彼……。 →第二話へ |
あとがき |
監修の富士さんへ 『富士さん、監修して頂いて、本当に有り難うございました♪ それなのに出来が悪くて済みませんです(汗』 |