ヘルミンス〜触手少女〜
作・絵 ゆーすけ

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<第一話>


「ごぇ・・ぐぉぉおぇぇ・・ぅえっ・・・・」

パシャッ・・パシャシャッ・・・

「けほっ、けほっ・・・けほっ」

給食の後、私は決まってトイレに行く。
なるべく教室から離れた、人の居ないトイレ。

シャァァァァァァ・・・・・

「はぁはぁはぁ・・・・」

薄汚れたコンクリートの壁に、水の流れる音と私の荒い息使いが染みわたる。

胃液が喉を焼く・・酸が舌を痺れさせる。
さすがにこの感覚だけは、慣れはしても気持ちの悪さは変らない。

それでも私は吐かないわけにはいかない。

そう・・ヤツを太らせてしまう恐怖に比べたら、こんなのは全然大したことじゃないのだから。





私は春日美千留(かすが・みちる)中学2年生。
自分で言うのも何だけど、成績優秀、品行方正、その上明るく朗らか
・・・絵に描いたような優等生とは私のことを言うのだと思う。
当然担任の教師にも信頼され、級友にも慕われている。

でも、私としては1つ気に入らないことがある。
何故か皆、口を揃えて「春日さん、大丈夫?」「具合悪いんじゃない?」「ちゃんと栄養を摂らないと」等々、
私の顔を見る度そんな言葉を掛ける。

何?私ってそんなに不健康そうな顔してる?
心配しなきゃならないほど痩せてる?

そりゃぁ、クラスの平均体重に比べたら私は10キロ以上少ないけど、でも成長の度合いだって人其々なわけだし、
皆の体型に私が合わせなきゃいけないなんてことは無いはずよ。
いいえ・・それどころかきっと、女子の連中は私のスタイルに嫉妬しているに違いないわ。

私は子供の頃から目が大きくて、睫が長く、色白で、唇だけは紅を塗ったように赤かった。
少女漫画のヒロインの様に長く伸びた手足には無駄な肉はひとつも無く、腰も足首も指も、
触ったら壊れてしまいそうなくらい細くて華奢だ。
胸だけは人並み程度には膨らんでいて、細い身体との対比でそこだけ妙に強調されて見えたりもする。

だけど口の悪い友達は、「痩せ過ぎてて気持ち悪い」とか
「目だけがギョロッとしていて怖い」だとか「ダイエットのし過ぎで拒食症になってる」だとか・・・
根も葉も無い噂話で私を罵って、自分達の勉強のストレスだとか悩みとかの憂さを晴らしているらしい。

私は別にダイエットなんてしていない。
勉強でも恋愛でも家庭環境でも問題なんか抱えていない。
私はお父さんとお母さんの自慢の一人娘なのよ?

小さい頃からまわりの大人達にはいつも誉められていたのだもの。
・・・他の子達とは違う。
そうよ、私は特別な人間・・・
拒食症なんていうつまらないものになんか縁はない。

私は確かに食が細い。
でもそれには理由がある・・・

”私の体内には怪物が居る”





ヤツの存在に気付いたのは、私が小学校を卒業する少し前のことだった。
その頃から私は、時々襲ってくる物凄い頭痛や吐き気に悩まされていた。
最初は大して気にはしてなかったけど、だんだんと頻度が増え、症状も重くなっていって、そしてついには
・・・・見てしまった。

その日、私は夜中に突然気分が悪くなって目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込むわずかばかりの月明かりに照らされ、何かがうねうねと宙をさ迷って揺れているのが見えた。
暫くの間、私は寝惚けた頭でその光景をただぼうっと眺めていた・・・

なんだろう・・縄跳びの紐くらいの太さだ。
細くて半透明で、キラキラと輝いていて何だかとっても綺麗・・・
私が横たわるベッドの上を3〜4本、其々があっちへ行ったりこっちへ行ったりと、頭をふらふらと振っていた。

私はそれらが何処から生えているのか気になって、視線を落としてみた。
すると掛け布団はベッドの下にずり落ちて、ピンク色のお気に入りのパジャマははだけ、
私のかわいいお臍とショーツが丸見えになってしまっていた。

更にそのショーツは太股のあたりまでずり落ちて、
あろうことかまだ生えたばかりだったあの恥ずかしい部分の毛までが露になっていた。

でも、そんなことよりももっと驚いたのは、その奥・・恥毛の向こう側で揺らめく怪しげな細い紐状の物体を見たときだった。

「ひっっっっ」

その光景に私は思わず息を呑んだ。

普段は恥ずかしくて自分でもあまり見ることのない部分・・・
いつも綺麗にピッタリと合わさっていたそれは、今は目を疑う程に醜く広げられ、内側のピンクの肉が捲れ上がり、
数本の紐状の物体をずるずると吐き出していた。

今更ながらに私の脳に恐怖が押し寄せるのを感じた。
私は気が動転して、慌ててその紐を引き抜こうとした。

「痛っっっ!」

信じられない程の激痛が走った。
頭の頂点に雷が落ちたのかと思う程の凄まじい衝撃。
それはまるで私の体が「これは命に関わる重大な外傷である」と訴えているかのように・・・
私はその紐を引き抜くのを一瞬躊躇った。
下手をすると死んでしまうかもしれない・・・私はそう思った。

でもダメ!今対処して置かなければ後でもっと大変なことになってしまう!
私はそう思い直し、勇気を振り絞って・・・
そして紐を一気に抜き去った。

「いっっ・・ぎやあぁぅあぁああーーーーっ!!!」

気が遠くなる程の激痛。
枕に顔を埋めて声を殺そうとしたけれど、無駄だったかも知れない。
その夜たまたま両親が留守だったのは幸いだっただろうか?
こんな声を聞いたら心配してすぐに飛んで来ていただろう。

それにしても、あんな酷い痛みは今まで経験したことがなかった。
自分自身の手で傷口を抉って、内臓を引きずり出す感覚・・・とでも言おうか?

私は噴出す大量の汗を背中に感じながら、無我夢中で全ての紐を引き抜いた。
・・・よく途中で気を失わなかったものだと、我ながら関心する。

全ての紐を抜き終わった私は、ガクガクと震える身体に鞭を入れながら、何とかベッドから這い出した。

引き抜いた紐は、暫く私のベッドの上でのたうっていた。
その内の何本かはベッドから落ちて私の足元に這い寄って来た。
私は手近にあった椅子をそいつに投げつけて、必死で奴等から距離をとった。
そして私は部屋の壁に張り付いて、そいつ等が一刻も早く動かなくなるのをひたすら祈り続けた。

どのくらい時間が経った頃だろうか・・・
私の股間から生えていた紐状の生き物は、徐々に動きが鈍くなっていった。
最初に引き抜いたヤツは茶色くくすんで干からびたミミズのようになっていた。

1匹・・また1匹と死んでいく。
そうやってようやく部屋は元通りの静けさをとりもどした。





その晩、それ以後の記憶は無い。
気が付いたら朝になっていて、私は自分のベッドでいつものように目を覚ました。
干からびて死んだ筈の、例のミミズだか触手だかの死骸は、結局どこを探しても見つからなかった。
ただいつもの朝と違っていたのは、下着にこびりついた大量の黒いシミだけだった・・・

私が思うに、あの夜の半透明の紐状のヤツは幼虫だったのじゃないだろうか?
ギョウチュウ検査というものが年に1回くらい学校で行われるだろう・・・
あれは、夜の間にギョウチュウが肛門に生みつけた卵を、専用のセロハンで移し取るのだ。
でも私はその検査では今まで一度も陽性の反応を貰ったことは無かった。
何故なら私の体内に居るヤツは肛門等ではなく、もっと安全な場所に卵を産み付けるからだ。
その場所というのは・・・・・・そう、子宮。
卵から孵った幼虫は私の胎盤を栄養にして育つのだ。
月経がいつも不規則なのがその証拠だ。

でもこの方法には欠点がある。
まず卵を産み付ける際に肛門から膣まで卵管を伸ばさなければならない。
更に、幼虫が成体になる前に子宮から消化器系へと移る必要がある。
そのとき幼虫が肛門から侵入するのか、或いは口から侵入するのかは判らないけど、
あの晩みたいに迷って私に見つかる間抜けなヤツもいるってことは確かだ。

だから私は、あれからずっとヤツと戦い続けている。
私は自分の命を維持する為の最低限の栄養しか摂らないことに決めた。
それ以外はただヤツを太らせるだけだから・・・

ヤツは今も私の体の中に棲んでいる。
胃のあたりにいつも顔を覗かせて、餌が運ばれてくるのを今か今かと待ち構えている。
ヤツの胴体はミミズのように細くて長い。
私の腸にカモフラージュしながら、時に絡み合い、食い破り、同化しながら、徐々に徐々に私の体を乗っ取ろうとしている。

でもそう易々と受け渡してはあげない!
ううん、いつかきっとお前を倒してやる!
その為に私は常に神経を張り詰めさせて、お前の気配を探っている・・・

さあ、出て来なさい!
根こそぎ引っこ抜いてやるから!
どんなに苦しくても、痛くても、私は躊躇わない。
長い間じわじわと私を苦しめ続けた悪魔め・・・

口?お尻の穴?それとも前の穴から出てくるのかしら?
もしかしたらお腹の皮を食い破って出てきちゃうかも・・・
フフ・・いいわよ?どこから出てきたって必ずその頭を引っつかんで引きずり出してあげるんだから・・・

そしたらきっと、お前も必死になって抵抗するでしょうね。
私の腹の中に埋まった長い尻尾をばたばたと振り回して、ハラワタをぐちゃぐちゃに掻き混ぜるんだわ。
それでも私はお前の頭をがっちりと掴んで放さない。
そして渾身の力を振り絞って、ズルズルって無理矢理引き抜いてやるんだ。
きっと物凄い量の血が噴き出して、私は自分の返り血を浴びて真っ赤に染まるんだわ。

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

想像したら気分が高揚してきちゃった。
ああ・・早く出てきなさいよ。
私はいつでも心の準備はできてるんだから。



でも一番困るのは、これからもずっとずっと隠れ続けられること・・・
私の体力は昔に頃に比べて確実に衰えてきている。
不安と食事制限の所為で、肉体も精神もかなりキツイ状態にあることは自覚している。

早く・・・早く出てきてよ・・・

私の体から出て行って・・・



苦しいのは嫌。

不安なのは嫌。

痛いのも気持ち悪いのも・・全部嫌!


美味しい物をお腹一杯食べたい・・・

朝までぐっすりと眠りたいよ・・



・・・出て行け。

出て行け、出て行け、出て行け!

私の体から出て行け!


・・・・・はやく・・・早く出て行って・・・そうしないと・・・・


”私の体がもたない”


・・・・

苦しい・・・誰かたすけて・・・

病気じゃないの・・・アイツが・・・アイツが私を苦しめるの・・・

何で私だけが・・・・・・・ずっと・・ずっと良い子にしてたのに・・

どうして私だけがこんな思いをしなくちゃいけないの?


お父さん・・お母さん・・先生・・・・・・・・翔くん・・・


助けて・・気付いて・・・私1人で苦しんでるんだよ?

こんなにいっぱい苦しんでるんだよ?

辛いんだよ?寂しいんだよ?

ねぇ・・応えてよ。

ねぇったら・・・





男子生徒1「おいおい、なにも顔まで隠しちまうこたァ無いんじゃねぇか?」

男子生徒2「別に良いだろ?目と口を塞ぐんならこの方が手っ取り早いじゃん」

男子生徒3「ま・・はっきり言ってコイツの顔なんか見たかねえけどな」

男子生徒2「言えてる。コイツの顔ってさぁ、遠くから見ると骸骨に見えることない?ちょー不気味なんだよね」

男子生徒1「それ言ったら体の方だって・・・」

びりっ

「んんーーっ!」

男の手が私のシャツを乱暴に引っ張った。
ボタンが引き千切られブラに包まれた私の胸が外気に晒される。

男子生徒1「ほれっ、・・・あばら骨が浮き上がってガリガリ」

男子生徒3「おお?でも胸は割とあるな」

あれ?・・・・私何でこんな所に居るんだろう?
何をされてるの?
私は頭から袋のようなものを被せられ、視界を奪われ、声を上げることさえ出来ない。

数人の男達に囲まれているのが判る。
多分この学校の生徒だろう。

袋を被せられているので匂いまでは判らないが、背中の感触からして、私が寝かされているのは体育マットのようだ。
だとすればここは学校の体育倉庫の中ということになる。

・・・なんて、冷静に状況分析をしている間に私の体は更なる窮地を迎えていた。

男子生徒1「それじゃそろそろ・・・・へへへ」

男子生徒2「勿体ぶんなよ、馬鹿。さっさと引き剥がせよ!」

とうとう男の指が私のショーツを下ろしにかかる。

いやっ・・やめてーー!!

「んんーっ!ふぐぐぅー!!」

埃臭い体育倉庫に、私の悲鳴にならない悲鳴が響いていた。



→To be continued(第二話へ進む)


あとがき
今回はじめてシリアス路線に挑戦してみました。(笑)
テーマは勿論『触手』です。ハイ。
フェラリアに感染した犬の心臓の解剖写真を見てソウメンが食べれなくなるような人は
読まない方がいいかも知れませんねぇ。(←既に手遅れ?)